アダルトチルドレンと愛着障害
アダルトチルドレンとは、機能不全の家庭で育ち、生きづらさを抱えた人のことを言います。 もともとはアルコール依存の親をもつ家庭が注目されましたが、現在では、アルコールの問 題だけではなく、両親の不和や虐待、親のコミュニケーションや世話の不足など、機能不全 の家庭について、より広い概念で考えられるようになってきています。
愛着とは、一般的に人が養育者など重要な他者との間に築く情緒的な結びつきであると言 われています。人間も哺乳類も幼く弱い時期に親などの自分を守ってくれる存在とつなが ろうとすることは、生きていくために必要な本能的な衝動だと考えられています。 また、ボウルビーが「ゆりかごから墓場まで」(Bowlby,1979)と言ったように、幼児期だけ ではなく、人生が続く限り愛着は大事なものだと考えられています。
養育者だけではなく、友人、恋人、夫婦、同僚など人生における重要な他者との関係でも大 切なものとなり、大人になっても困った時や心が弱った時に誰かを頼ることができるのは 大きな助けとなるものです。
さて、アダルトチルドレンと愛着の関係についてですが、機能不全の家庭で育ちアダルトチ ルドレンとしての生きづらさを抱えた人のほとんどは、多かれ少なかれ愛着の傷やトラウ マをもっていると言えるでしょう。
つまり、本能的に親を頼ろうとはしても、それが難しかった環境があり、それゆえに自分は 愛されないとか、他者は頼りにならないし信用できないなどの信念をもつことがあり、大人 になっても自己価値や対人関係の問題、生きづらさ(愛着障害)を抱えてしまうことが多いのです。
愛着には型がある
愛着理論(Bowlby,1979)では、幼い頃から繰り返された親との関係性によって、自分の価値 や感情の扱い方、対人関係の築き方などにおいて、特定の信念やパターンが定着すると考え られています。それが愛着の型となります。
例えば典型的には次のような愛着の型があります。
①安定型 |
他者は自分が必要な時に助けてくれるし、そばいいてくれる、頼りになる。 自分に価値が感じられ、対人関係に関する不安も少ない。自分の感情を感じ ることができ、他者に伝えることもできる。 |
②回避型 |
他者は自分が必要な時に助けてくれないし、恥をかかせたり、批判したりす る。自分の感情やニーズを抑え、親密な人間関係や頼ることを回避し、なん でも自分独りで解決しようとする。 |
③不安型 |
他者は自分が必要な時にそばにいてくれることもあるが、いてくれないこと もある。対人関係に関する不安が強く、誰かがそばにいても独りぼっちにな る不安を感じやすい。 |
④混乱型 |
他者は自分が必要な時に助けてくれないし、怖がらせたり、怖がっていたり する。自分自身にも他者にも頼ることができず、感情があまりに圧倒的にな るため、感情を感じないようにする。 |
これらのいくつかが組み合わされた愛着の型となることも多いですが、自分が主に用いる 愛着の型というものが形作られていきます。
そして不安定な愛着の型(②~④)は、大人になっても問題となることがあり、時には親世 代から子ども世代にその問題が引き継がれることもあります。
アダルトチルドレンと不安定な愛着の型
ちなみに、ここでは詳しくは書きませんが、アダルトチルドレンにはいくつかのタイプがあ ると言われています。
代表的なものとして、ヒーロー(英雄)、スケープゴート(生贄)、ロストワン(いない子)、 ケアテイカー(世話役)、ピエロ(道化師)、イネイブラーなどがあります。 最近ではよくヤングケアラーという言葉を耳にしますが、これは本来大人が担うはずの家 事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことを意味します。
つまり、アダルトチルドレンは家族の中である役割を担うことが求められ、年齢相応の本来 のありたいような存在ではいられず、安定した愛着関係や型を作っていくことが難しい環 境にあったと考えられます。
愛着障害は治せる?アダルトチルドレンの生きづらさを改善するには
では、機能不全の家庭で育った人は不安定な愛着の型が一生改善しないままなのでしょうか?
実はそうではなく、友人や恋人、夫婦などにおいて安定した愛着関係をもてる人と出会い、 関わりを続けていくことで、少しずつ不安定な愛着が安定したものへと変容していくこと があるとも言われています。これはカウンセラーからしても希望をもてることです。
例えば、「自分の感情や気持ちは人から否定される」と思い込んでいた人が、誰かから感情 や気持ちを共感され肯定される体験をすることは変容のための大切な一歩となります。 人から受けた傷は人とのふれあいを通じて癒されるものです。
そのため、カウンセリングにおいても、一部の心理療法(例えば AEDP など)では、カウ ンセラーは積極的に安定した愛着型への変容を促していく関わりを大事にしていきます。 これを修正感情愛着体験(Prenn,2009)と言います。
アダルトチルドレンとして家族の中で役割を担うことや、愛着の型を形作ることは、ある意 味では自分や家族との関係性を守り、生き抜いていくために必要な防衛のありかたであっ たと言えるでしょう。
アダルトチルドレンの生きづらさを改善していくためには、そういった役割や不安定な愛 着の型(愛着障害)をもつに至った成り立ちを理解すること、過去と現在の違いを認識して対処してい くこと、そして本来感じてよかったはずの感情やニーズを少しずつ取り戻していくこと、な どが大切となります。
もし、身近な人間関係で安心できる関係を築ける人がいれば、それが一番望ましいことでし ょう。
ただ、身近ではなかなかそういった人と出会えないという方、またはカウンセラーと一緒に アダルトチルドレンの生きづらさに取り組んでみたい方は、ぜひ一度カウンセリングを利 用してみてください。
文責:カウンセラー山岸